はじめに
脚本・監督を務めるのは、前作に引き続き山口雅俊氏。伊藤理佐氏の漫画を原作に、ユニークな家族の日常を通して食と人生、そして幸福の本質を描き出す。
「おいハンサム!!」シリーズは、一見何気ない日常の中に潜む人生の真理を、ユーモアを交えながら描き出すことで注目を集めてきた。第1シーズンでは、頑固だが家族思いの父・伊藤源太郎(吉田鋼太郎)と、恋愛や仕事に悩む三姉妹の姿を通して、家族の絆や自分らしく生きることの大切さが描かれ、その独特の世界観と温かみのあるメッセージ性で、多くの視聴者の共感を呼んだ。
シリーズ第2弾となる「おいハンサム!!2」では、さらに磨きがかかった脚本と演出、キャストの熱演により、前作を上回る深みとユーモアを兼ね備えた作品に仕上がっている。「正欲」と同様傑作と言えるでしょう。
本稿では、「おいハンサム!!2」の各話に散りばめられた人生のヒントと、作品全体を貫く山口監督の思想について考察していく。ネタバレを含むことをあらかじめご了承いただきたい。
1. 各話のテーマと全体を貫く人生哲学
山口監督の作品に一貫して感じられるのは、小さなエピソードの積み重ねによる点描画的な手法だ。各話のテーマを貫く人生哲学は、決して大仰に語られることはない。
第1話「見た目に騙されるな」では、一見つまらない人生を送っているように見える独身女性が、実は自分なりの楽しみ方を知っていることが明かされる。
第2話「全てを知ろうとするな」では、昔憧れていた人物の意外な一面を知ってしまった時のがっかり感が描かれた。
第3話「サボってうまくいくこともある」では、家事に追われ息つく暇もない母・千鶴(MEGUMI)が、思い切って部屋の片付けをサボってみると、かえって良い結果を生んだという内容。几帳面に頑張るよりも、時にはサボることで広い視野を得られることを教えてくれる。
最終話「選択肢が多い方が幸せとも言えない」**では、主人公・源太郎(吉田鋼太郎)の娘たちが恋愛や仕事で悩む姿が描かれる。選択肢が多すぎて決められない長女・由香(木南晴夏)に対し、源太郎は「完璧な選択なんてない。だからとりあえず選ぶ。正解を求めすぎるな」と諭す。選択肢の多寡が幸福の尺度ではないこと、自分の選んだ道を正解と信じて進むことの大切さを説く名シーンだ。
2. 作品が伝える「食」の描写とその意味合い
作品のもう一つの大きな魅力は、「食」の描写だ。監督の食へのこだわりは、料理の手間を惜しまず丁寧に描写することに表れている。
特に印象的だったのが、第6話「不便さを楽しもう」での源太郎の黒豆料理だ。ひと手間かけて丁寧に黒豆を煮る姿からは、手間暇かけて食事を作ることの大切さと、その過程を楽しむ源太郎の姿勢が伝わってくる。
また、劇中には食堂や中華料理店など、地域に根差した飲食店が登場する。どこか懐かしく、居心地の良い空間が丁寧に描かれ、そこで提供される料理への愛情が感じられる。「行けるうちに行こう。会えるうちに会おう」というセリフには、そうした店を営む人々への敬意と、地域の味を守り続ける営みを応援するメッセージが込められている。
食卓を囲むシーンも、家族団欒の象徴として大切に描かれる。第7話「オリジナルな日常」で描かれた家族でパンの耳を食べるシーンは、何気ない日常の一コマではあるが、そこに流れる家族の絆と幸福感が胸を打つ。
3. キャラクターを彩る俳優陣の演技力
本作のキャラクターたちは、どこか型破りでありながらも魅力的だ。個性豊かな面々を演じ分ける俳優陣の熱演ぶりも見逃せない。
吉田鋼太郎演じる源太郎は、頑固でありながらも家族思いの父親像を好演。
娘たちを温かく見守る母・千鶴役のMEGUMIは、どんな時も動じない包容力と強さを感じさせる存在感を放つ。
そして、娘たち三姉妹を演じた木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈の軽妙な掛け合いが物語に彩りを添える。恋に仕事に奮闘する等身大の女性像が共感を呼ぶ。
脇を固める俳優陣も、濃いキャラクター造形で存在感を発揮している。
4. 現代社会へのアンチテーゼとしての「おいハンサム!!」
「おいハンサム!!2」は現代社会へのアンチテーゼとしての一面も持つ。日常の些細な幸せや、家族との触れ合いを大切にするというメッセージは、選択肢があふれ、効率性や利便性が追求される現代だからこそ意味を持つ。「不便さ」の中にこそ、人生の味わいがあると作品は訴えかける。
5. 映画版への期待と展望
6月公開予定の映画版「おいハンサム!!」にも期待が高まる。ドラマとは異なる表現手法で、どのような世界が描かれるのか興味をそそられる。
個人的には、劇中で一切姿を現さなかった「松雪京香」なる人物にも注目したい。ドラマでは名前だけ登場したこの謎の女性が、映画でどのように物語に絡んでくるのか、想像をかき立てられる。
6. おわりに
「おいハンサム!!2」は、山口雅俊監督ならではの視点で綴られる食と人生の物語だ。独特の間合いでエピソードを積み重ね、全体としてある種の人生観を示唆する手法は、視聴者を飽きさせない。コメディタッチでありながら、ふとした瞬間に感じるしみじみとした感動がドラマの奥行きを感じさせる。
第1話から最終話まで通して描かれた「ありのままの自分を受け入れる」というメッセージは、見る者の心に静かに響く。誰しも悩みを抱え、理想と現実のギャップに苦しむ時がある。しかし、「おいハンサム!!2」の登場人物たちは、そのギャップを不幸と捉えるのではなく、むしろ自分らしさの表れとして前向きに受け止めていく。
特に源太郎の娘たちへの言葉は、彼女たちだけでなく、視聴者をも勇気づける。「選んだ道を正解と信じて進むこと」「正解を求めすぎないこと」など、生きていく上での指針を与えてくれる。人生に完璧はなく、時に迷いや後悔はつきものだが、それでも自分の選択を肯定し、前を向いて歩んでいく姿勢こそが大切なのだ。
「おいハンサム!!2」の魅力は、こうした普遍的な人生の価値観を、飾らない日常の中に見出していく点にある。登場人物たちは、華やかな成功を収めるわけでも、大きな悲劇に見舞われるわけでもない。しかし、彼らが織りなす何気ない日常の一コマ一コマが、かけがえのない人生の一部であることを教えてくれる。
食卓を囲む家族の団欒、行きつけの食堂の味、恋人との何気ない会話。そうした些細な幸せの積み重ねが、人生をより豊かに彩っていく。「おいハンサム!!2」は、そんな当たり前の幸福の尊さを描くことで、現代を生きる私たちに温かなメッセージを届けている。
独特の世界観と感性で観る者を魅了する山口雅俊監督の作品は、今後も目が離せない。「おいハンサム!!」シリーズがこの先もますます進化を遂げ、私たちに新たな気づきと感動をもたらしてくれることを期待したい。日々の忙しさに追われながらも、ふと立ち止まって自分の人生と向き合う。そのきっかけを与えてくれる作品として、「おいハンサム!!2」は長く愛され続けるだろう。