ゲーム「8番出口」の誕生
KOTAKE CREATEによる個人制作
ゲーム「8番出口」は2023年、インディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATEがたったひとりで制作しリリースしました。よくある地下鉄の駅を舞台に、無限にループする地下通路に閉じ込められたプレイヤーが様々な「異変」に恐怖しながら「8番出口」を目指すという、異変探し無限ループゲームです。
蛍光灯が灯る無機質な白い地下通路というシンプルな舞台設定ながら、全世界累計200万ダウンロードを突破する世界的ブームを巻き起こしました。極めて日本的に整理整頓された地下通路のデザインと、ループする通路を進むか引き返すかの二択を繰り返すというシンプルながらも強いルールが、世界中のプレイヤーを魅了したのです。
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ゲームのルールとシステム
プレイヤーは壁に掲示されている謎めいた「ご案内」を見つけます。そこには4つのルールが記されています。
「異変を見逃さないこと」「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」「異変が見つからなかったら、引き返さないこと」「8番出口から、外に出ること」
通路のどこかに異変があれば引き返し、なければそのまま前に進む。1番出口、2番出口、3番出口と、正しければ8番出口に近づき、見落とすと0番出口に戻る。このシンプルなルールの繰り返しが、プレイヤーに独特の緊張感をもたらします。
川村元気監督との出会い
2023年11月|運命的な出会い
川村元気監督は2023年11月にゲームの「8番出口」に出会いました。川村は2022年公開の監督映画「百花」の中で、記憶を表現するために本来繋がらない空間や時間をワンカットの中に繋げるという映像手法に挑戦し、これが評価されてサン・セバスチャン国際映画祭で監督賞を受賞しています。
川村は「百花」の表現を使ってまったく新しいジャンルの映画を撮りたいと考えて題材を探していたところ、「8番出口」に出会ったのです。極めて日本的に整理整頓された地下通路のデザインや、ループする通路を進むか引き返すかの二択を繰り返すというシンプルながらも強いルールに惹かれました。
ストーリーがないゲームに物語を与える
ゲームには物語が設定されていません。しかし川村は、この空間にインスパイアされた物語が作れたら、誰も観たことがない映画ができるのではないかと考えました。「あのゲームをどうやって映画に?」という謎に包まれた映画プロジェクトが、ここから始まったのです。
川村は映画化にあたって、「『セブン』や『8½』は今回モチーフの一つになっている。まるで罪を可視化されたような映画、悪夢を見ているような映画、という意味で」と語っています。デヴィッド・フィンチャーの「セブン」やフェデリコ・フェリーニの「8½」といった名作を意識しながら、新しい恐怖の提示を目指しました。
2024年12月27日|実写映画化発表
SNSでの爆発的反響
2024年12月27日、配給元の東宝はゲームソフト「8番出口」の映画化作品を2025年に公開すると発表しました。X(旧Twitter)では「実写映画化」がトレンド1位になり、わずか30秒の特報映像と俳優・二宮和也の主演情報が解禁されると、爆発的に全世界に拡散され、Xのポストが2900万インプレッション超えという「異変」が発生しました。
初報トレーラーでは、原作と同様に地下通路の向こう側から歩いてくる中年男性(原作では通称「おじさん」、映画版では河内大和が演じる「歩く男」)の映像が用いられ、SNS上ではその再現度の高さが話題となりました。
公開日決定と撮影の秘密
2025年3月28日には、公開日が8月29日に決定したと発表されました。「829」は「パニック」とも読め、タイトルの「8」にこだわった日付設定となっています。
撮影場所は公式に秘密とされています。極めて日本的な地下通路の雰囲気を再現するため、美術セットと実際の場所を組み合わせて撮影が行われたとされていますが、詳細は明らかにされていません。
原作ゲームと映画版の違い
映画版オリジナルのストーリー
ゲーム版には存在しないストーリーが、映画版では追加されています。満員の地下鉄に乗り込んだ「迷う男」は、泣き叫ぶ赤ん坊とその母親が、怒った男に怒鳴られている様子を目撃します。迷う男は母子を気に掛けつつも、結局は視線を逸らし、何もせずに地下鉄を降りました。
派遣現場に出勤するため駅の出口へ向かう迷う男の元に、別れ話が持ち上がっている恋人の「ある女」から電話がかかってきます。妊娠が発覚したと言う彼女に、何も決められない迷う男は歯切れの悪い返事を続けますが、不自然に電波が圏外になります。
このように、映画版では「選択と決意、父になる」という人生のテーマが加えられています。ゲームの世界観とそこに迷い込んだ男の人生が重ね合わされているのです。
喘息という設定の追加
映画版主人公の「迷う男」は喘息持ちの設定ですが、これは二宮和也のアイデアです。初期の脚本ではホラー要素があまり感じられなかったことから、主人公に何か負荷があったほうがいいと考え、映画内容にストレスという圧をかけ続ける要素として設定されました。
閉鎖空間で繰り返し歩き続ける中での喘息の発作は、主人公の肉体的・精神的負荷を視覚化し、観客に臨場感を与えています。
ノベライズと漫画化
川村元気による書き下ろしノベライズ
映画版をもとにしたノベライズ作品が、監督の川村元気によって書き下ろされました。映画版でカットされた異変や主人公たちの心の内が綴られており、映画とは異なる体験を提供しています。
トーハンが発表した2025年7月15日付の週間ベストセラーの文芸書ジャンルで第1位を獲得するなど、映画公開前から話題となりました。川村は「説明をしっかりしている」ノベライズであると評され、映画の補完的な役割も果たしています。
週刊コロコロコミックでの漫画連載
週刊コロコロコミックで漫画「8番出口」の連載が開始されました。異変を探して地下鉄の駅から脱出を目指す様子が漫画で描かれ、若年層への訴求も行われています。
Nintendo Switch 2版の発売
映画公開に合わせて、「8番出口 Nintendo Switch 2 Edition」が8月29日にリリースされました。解像度とフレームレートを向上させ、映画公開に合わせて新たな異変も追加されています。
ゲームから映画へ、そして映画からゲームへ。メディアミックス展開によって、「8番出口」の世界観はさらに広がりを見せています。
KOTAKE CREATEのコメント
原作者のKOTAKE CREATEは、カンヌ映画祭出品決定時に次のようにコメントしています。
「自分の作ったゲームが、映像化され、さらにはカンヌ国際映画祭に行くなんて夢にも見ておりませんでした。これをきっかけに、より多くの人にゲームと映画の『8番出口』が届くと嬉しいです。川村監督、二宮さん、河内さん、ほか映画に関わった皆様、本当におめでとうございます!」
個人制作のインディーゲームが世界的映画祭に招待されるという、ゲーム業界と映画業界の新しい関係性を示す出来事となりました。

